2012年5月23日水曜日

ひとのけ、もののけ


福島の事故が起こる数年前に、原発現場のマニュアルについてのご相談を受けました。私の言うことが理にかなっていて感銘を受けたというのが発端です。

リーズナブル(reasonable)という言葉の意味は、本来、「理にかなった」とか「納得がいく」という意味ですが、なぜか「価格が安い」という意味で使われる傾向があります。本当は売り手が使う言葉ではないと思います。
言霊(ことだま)と言う言葉があるほど日本人は言葉を大切にしてきました。しかし、時に言葉は刺客になり、呪いとなり、とんでもない方向に誘い破滅させます。 文化を大切にしない業界も人も滅びます。
誰が流通させたのか知りませんが、物流、流通と言う言葉を、小売業を「物を流す仕事」にしてしまい、いまでは「情報流通」という恐ろしい言葉さえあります。それらに人間は塊として見る目があるだけで、生活を豊かにする思想が見当たらないのです。テレビのスイッチを押せば、朝から深夜まで「こんなものでしょう」のやっつけ仕事で作られたとしか思えない番組のオンパレードです。おかげでほとんど見ることはなくなりました。
小売業は流通と言う言葉とは引換に、ひとつ、ひとつの商品を細かく丁寧に扱う心が台無しにされ、それを引き戻すために「顧客満足(CS)」と言う言葉が使われますが、実感する場はほとんどないのが現実です。 「リーズナブル」がそうであるように「顧客満足(CS)」も言葉遊びの道具に成り下がり、いまは「ホスピタリティ」もその危険にさらされています。言葉を食い荒らし、現場から「ひとのけ」を払いのけ「もののけ」にしていく。そこに見えるのが、ITや情報の高度化による事故ではなく、 初歩的なアナログ的なミスによる大事故のオンパレードです。
facebookが流行るのは「個」への回帰、「もののけ」から「ひとのけ」に塗り替えたいモチベーションが働いているからだと思います。ほとんどは「もののけ」にされましたが、すき間、すき間には人が勇気と主体性を持って食い込む余地があると無意識にも感じているからではないでしょうか?そんなことを考えていたら、ここ数年、ハリウッドが描いて来た終末の世界にいるような気分になります。